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ドンドンドドドンどんどん行くばい!
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9th day
6月に入ると、急に空気が湿っぽくなってきた。紫陽花が花弁の端から僅かに色づき始めている。
中途半端に暖かいのに雨が降ると冷える、湿っぽくて動くだけでも汗がにじむ嫌な季節だ。梅雨が来るのだ。

それでも、昼休みに入ってから少しすると、朝から弱かった雨が止んで、雲が薄くなり始めた。
一日雨と予報された重たい雲の切れ間が、たまたま今日は昼休みに巡ってきたのだ。
雨が続くと太陽が恋しくなる。クラスメイトと同じように、紫乃もそのわずかな太陽の恩恵を教室の窓際で受けていた。

湿気の所為か籠ったような昼休みの教室の中で、白石が誰かの机に腰掛けてぼんやりと窓の外を見ているのが目に留まった。
握っているものは何だろう、握力を鍛えるような健康器具なのだろうか。確か彼はそういうものが好きだと言っていたかも知れない。
相変わらず綺麗な顔立ちだ。男の子なのに、ちゃんと整っている。美形とは、見ているだけで引き込まれそうな顔の事を言うのだと紫乃は白石を見るたび思う。
紫乃がぼんやりと眺めていると、無表情で健康器具を手持無沙汰に握っていた白石が不意にふっと糸を緩めたように笑うので、紫乃はどきっとした。

「何見てるの?」
「んー、アレ」

大きい声で少し離れた白石に話しかけてみると、包帯を巻いた左手で手招きされた。近寄ってみると、白い左手が今度は窓の外を指差す。
白石が苦笑いで指差した先には数人の影があった。全力疾走で校庭を突っ切って行くのが見える。
先頭を走るのは確か、よく昼休みになると教室に「遊ぼうやー!」とやってくる赤い髪の1年生だ。
その隣を同じクラスの忍足くんが張り合うようなスピードで走っている。
少し遅れて、彼らの後ろをかったるそうに付いてゆく黒髪の男の子や、大柄な坊主の姿も見えた。

「元気だね」
「ホンマや」
「どこ行くのかな」
「コートやろな」
「よっぽど好きなんやね、テニス」
「せやなあ・・・。あいつら、他に時間の使い方知らんからな」

彼らは校庭を突っ切ってコートに向かって行った。雨で柔らくなった校庭には、彼らの新しい足跡がぽつぽつと残っている。
白石は彼らの姿を見て、穏やな笑みを浮かべている。

「白石くんは行かないの?」
「せやなあ、俺は遠慮しとくかな」
「何で?」
「昼休みっちゅうんは、休む為のモンやで」
「ふふ、おじさんくさい」

思わぬ発言に紫乃はつい笑ってしまう。笑ったのが少し気に障ったのか、白石に軽く睨まれた。

「一緒に行けばいいのに」
「よく遊ぼう言うてるけどな。あいつら加減知らんのや。帰ってきたらもうぐったりやで」
「確かに、そうかも」
「ただでさえ今日は体育館で朝練やったんに、やっぱボール打ちたいんやろうな」
「そうなんだ」
「それしか考えられへん連中やからな。せやから昼休みくらいのんびりしとる位が丁度ええんや」
「ふうん」

灰色い雲が徐々に白くなって、いよいよ太陽が顔を出した。その周りには久しく見ていない青い空も僅かに見える。
白石が眩しそうに片目を瞑って太陽を見上げる。

「この分なら、今日は部活出来そうやな」
「よかったね」
「ああ」

紫乃の言葉に嬉しそうに笑う。さっきの退屈そうな様子とは裏腹の白石に、この人も彼らと同じなんだなあと、紫乃は言葉には出さないけれど思った。
15days | 23:59 | comments(0) | - | chica
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