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ドンドンドドドンどんどん行くばい!
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10th day
梅雨の晴れ間で、今日は朝から天気が良い。朝の空気が好きだ。南向きに作られた教室の窓から東から朝日が差し込んで、窓を開けると冷たく澄んだ空気が入ってくる。
まだ覚醒しきらない紫乃のテンションは限りなく低い。それでも、紫乃はその時間が好きだった。
いつものようにガラッと自分の教室の引き戸を乱暴に開けて、窓辺の先客に気が付いた。夢の続きでも見ているのかと思った。
先客は紫乃に気付いて、すっきりと通る声で挨拶した。

「おはよう」
「おは・・・よう・・・?」
「何ね?」
「・・・珍しいね、千歳くんが朝から教室にいるなんて」
「そう?」
「うん。とても珍しいね」
「何ね、そんな他人行儀で」

九州から転校してきたばかりの自由人は紫乃の言葉にからからと笑う。
先客こと千歳千里というクラスメイトは、四天宝寺に転校してきた日からとにかく何に関しても良く言えば自由、悪く言えばルーズなのだ。
転校初日にも朝から来なかった。定期テストの日にさえ余裕で遅れてくる。
だから彼が朝から学校に来た日は「奇跡」と呼ばれるほどだった。
その千歳が朝日を背景に陽だまりのようにニコニコ笑っている。紫乃にとって珍しいどころの光景ではない。
千歳はふと声を顰めて、内緒話をするように囁く。

「実はな」
「実は?」
「夕べ寝過ぎたったい」
「それだけ?」
「他に理由が欲しい?」
「あるならば」

紫乃は千歳の立つ窓際に近い級友の椅子に座る。朝の白い光が目に痛い。
我ながら性格の悪い返し方だと思う。けれど、紫乃にとって朝とは機嫌が悪いものなのだ。
千歳は紫乃の棘を知らぬふりをしてか、相変わらず微笑んでいる。

「三島さんの顔が見たかった」
「は?」

何を言い出すんだこの人は。千歳の思わぬ言葉に流石に紫乃の頭も冴えてきた。

「嘘」
「本当」
「嘘」
「本当」

「冗談よね」
「本気ばい」

本気と言う割にはひたすら訝しむ紫乃をからかうような、楽しそうな笑みを浮かべっぱなしで千歳はそう言い放つ。

「三島さんがいつも早く来てるの、知っとるし」
「何で?千歳くん、いつも遅刻して来るのに」
「学校が教室だけやと思ったら大間違いばい」
「何それ。教室、来ればいいのに・・・」
「朝から夕方まで教室だけに閉じこもっているんはもったいないばい。この学校は広か。面白いモンもいっぱいあっとよ」

眉根を下げて、残念そうにそう言う。
寝ぼけた頭で彼の言葉を聞いていると、それも正しいように思えてくるから不思議だ。騙されている気がする。と、いうか騙されている。

「面白いって、例えば?」
「この前、カマキリの卵見つけた」
「嘘」
「うん、嘘」

カマキリの卵は冬やからね、と紫乃が大真面目に言うと「三島さんは物知りやねえ」と感心したように千歳に大きい手で拍手する。
気持ち良さそうに伸びをする。

「と言うわけで、じゃあ俺は今日も自主課外授業してくっかねぇ」
「えっ今日もサボるの?」
「うん。三島さんも来る?面白かよ。三島さんがいればもっと楽しいと思うばい」
「・・・別に、朝だけならいいけど」

千歳はやった、と子供のように笑っていたって自然に紫乃の手を取って歩き出す。その嬉しそうな笑顔を見ていると、紫乃も一日位学校をサボっても構わないような気持ちになってしまうから不思議だ。
その手が紫乃を新しい世界に連れ出してゆく。二人の後にした教室の窓から帯のように光が降り注いでいた。
15days | 23:51 | comments(0) | - | chica
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