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ドンドンドドドンどんどん行くばい!
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13th day
じりじりと遠い山の稜線で燃えている太陽が南向きの窓に差し込んで、茶色い教室を真っ赤に染め上げていた。
教室は不思議な場所だと紫乃は目の前のがらんとした教室を眺めて思う。
昼間は生徒達であんなに騒がしいのに、終礼が終わって生徒が帰宅してしまえば空っぽの静けさだけが戻って来る。その繰り返しだ。
本当に学校は不思議な所だ。年頃としては学校に通うのは当然のことなのに、どうして自分が学校に通っているのだろうと紫乃は時折不思議に思ったりさえする。

ああでも、そんなことよりも、今は。

「紫乃ー」
「・・・」
「できたかー」
「・・・っ」
「分かったかー」
「・・・っ!」
「おーい、紫乃「うるっさい!まだ分かんない!」

紫乃の拳の下敷きになっているのは数学の補習プリントだ。拳と一緒に握ったせいで皺になってしまっている。
一日の終業後、さあ帰ろうと意気込んだ紫乃は、かねてからの数学の成績不振を見かねた教師に捕まった。プリント3枚、今日中に終わらせろと呼び出されて押し付けられてしまったのだ。

「まだかいな。ホンマ、トロい奴やなー」
「うるさい!だって全然分からないんだもん・・・!」

隣からのん気な声を掛けて来るのは級友の忍足謙也だ。今日は部活がない日にも関わらず、放課後はコートでテニスをして来たらしい。
汗をかいて教室に帰ってきた謙也に数学を教えてほしいと紫乃が頼み込むと、謙也は仕方がなさそうに、けれど紫乃の隣席に腰を落ち着けてくれた。
手持ち無沙汰なのか、自分のペンケースからシャーペンを取り出すと無意識に回し始める。

「しっかし自分、ホンマ要領悪いねんなあ。適当にやっとけばこない残らんで済んだんに」
「だって数学、宿題すらやりたくない位嫌いなんだもん・・・」
「それくらいやったれや」

手持ち無沙汰に回していたペンを止めて、謙也は呆れたように笑う。
紫乃から見た謙也は案外、何でも出来る。案外と言っては失礼だけれど何事にも要領がいいのだ。ちょっとコツを掴むと何でもやってのけて見せる。
アホっぷく見せかけて、軽やかに何でも出来てしまう人なのだ。たまに憎らしく感じるくらいに。

「せやけどまあ、あの先生の話聞いてるだけでも全然分からんっちゅうことはないやろ」
「分からないのそれが!もう授業中先生が何喋ってるのか分からないくらいに!」
「・・・それはマズいやろ・・・」
「あー!むかつく!謙也のくせに何よ!授業中オモシロ消しゴムばっかり使ってるくせに!」
「俺のくせにって何や!って言うか消しゴムはめっちゃ奥深いねんで!?そんなこと言うんやったらもう紫乃には教えたらん!」
「あああ嘘!ごめん謙也!」

静かな教室に二人の喧騒だけが物寂しく響く。
言い合いのわずかな間に夕暮れの教室の哀愁が滲んで来て、紫乃は思わずはっとした。
謙也も同じように感じたらしく、教室の壁掛け時計と紫乃の手元のプリントを見比べた。

「ホンマにうかうかしとると下校時刻なってまうわ」
「うっ・・・」
「下校までもう1時間ないで。プリントはどれくらい残っとるん」
「・・・2枚・・・」
「はあ!?さっきまでの放課後2時間何やっとったん!」
「全然進まなかったんだもん・・・!謙也お願い!」
「・・・しゃあない、さっさとやってとっとと帰るで」
「やった!ありがとう謙也大好き!」
「全部出来たらたこ焼き付けたる」
「本当に!?やった!私頑張る!」
「おー、分かったらさっさと終わらせるで」
「はーい!」

夕日に照らされて落とされた影は真っ黒で濃い。東から透明な闇が迫っているのが見えた。
15days | 23:59 | comments(0) | - | chica
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