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ドンドンドドドンどんどん行くばい!
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14th day
雨の朝は湿っぽくて薄暗い。陰鬱な気分で登校した紫乃は湿っぽい昇降口で、本日3度目の溜息を吐いた。全く以て梅雨の下駄箱は地獄だ。
それでなくても紫乃にも授業中の暇をつぶすほどの悩み事は沢山ある。頻繁に実施されるテストやら、友人関係やら、部活やら。おまけに天候は心を支配する。雨は本当に気が重い。
そんなことを訥々と考えていた紫乃は、自分の教室にぽっかりと空いた空洞に気付かずに、入りざまに机に躓いた。

「わ、わ、うわっ!」
「・・・む」

反射的にそばに寄せてあった机を片腕で掴んで全体重を支える。何とか転ばずには済んだ。
教室に空洞が出来ていたとは。誰がやったのだろう、戻すの大変なのにと考えて空洞を覗くと、その空洞の中に、坊主が胡坐をかいて座っていた。
クラスメイトの石田銀だ。彼の周りには紙のようなものが広げられて空洞を埋めている。
それは転倒を踏みとどまった紫乃の足元近くまで伸びていた。幸い踏んでいないようだ。そっと床に足を下ろして、ほっと胸を撫で下ろした。
踏みとどまった妙な体勢のまま、紫乃は朝の挨拶をする。

「あ、おはよう・・・」
「おはよう」
「それ、何・・・?」
「般若心経や」
「って、あの?お坊さんが読むアレ?」
「ああ」
「石田くん、読めるの?」

驚きに満ちた紫乃の言葉に銀は静かに頷く。蛇腹に畳める折り本だ。明らかに現代図書ではなさそうだと思ったが、少し覗きこんでみると案の定漢字が羅列されていて、紫乃には少しも分からない。
読経が彼の趣味なのだろうか。中学生にしてはとても渋い。

「放課後は見回りの先生に気味悪がられたので、普段は朝に読んどるんやが・・・」
「え、読んでたの?・・・ごめん、私邪魔だったら図書室とか行くよ」
「・・・いや、ええ。もうすぐ登校時間やしな」

伸びきっている折り本を手早くぱたぱたと畳んでゆく。両足の足場を確保した紫乃は銀を手伝って机を元の位置に戻す。

「驚かんかったんは三島はんが初めてやで」
「えっ驚いたよ、これでも・・・気付かなかっただけだけど・・・」
「せやから入って来れたんやな。無心は強いわ」
「ええ、無心ってそういうことなの?」
「冗談や」
「冗談・・・」

「石田くんが冗談を言うなんて」と笑ってみたが、細い目で一瞥されるだけで静寂が戻ってくる。
気まずい。虚しくなってきたと沈黙に耐えられない紫乃の背中を汗が伝う。

「何か悩みでもあるんか」
「え?うーん。あるかないかと言われれば、特にないんだけど・・・」
「さよか。何かあったら相談してくれたらええ」
「え」
「つまらん悩みでも言葉にすると気が楽になることもあるで」
「うん。ありがとう」

相変わらず今日も梅雨らしく一日雨だ。登校して来た時に比べて心なしか雨脚が強くなっている気がする。
けれど少しだけ気分は晴れそうだ。何事も気持ち次第だと思い直して、紫乃は拳を握った。
15days | 23:44 | comments(0) | - | chica
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