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ドンドンドドドンどんどん行くばい!
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6th day
春がやってきて暫く、太陽の沈む時間が冬に比べて伸びたとはいえ、5時を過ぎると校舎の中は徐々に暗く翳ってくる。影から闇が滲み始めていた。
リノリウムの上をぱたぱたと慌てた調子で走る自分の足音を聞きながら、紫乃は自分の教室を目指していた。
たまたま廊下で会った違うクラスの友人と話しをしていたら、居室に連れ込まれ、つい遅くまで話し込んでしまったのだ。
お陰で遅くなってしまった。

少しあがる息を押さえながら教室まで走る。
教室の引き戸を開けるガラガラという音も寂れて聞こえるような夕暮れだった。

自分の教室に、立派な仏像が建立されていた。

紫乃の思考が停止する。どうしよう。誰が持ってきたのだろう。というか、いつ置かれたのだろう。
まさか明日友人達に「昨日教室で仏像を見た」と言ったところで誰にも信じてもらえはしまい。
そんなどうでも良いことを考えつつ紫乃が立ちつくしていると、仏像の首が、紫乃に向いた。

「うわああああっ!?」

動いた!

動いた!仏像が!菩薩が!仏様が、動いた!

きっと早すぎる迎えが来たのだ。天使は迎えに来ると言うけれど、わざわざ迎えに来てくれる仏様とは聞いたことがない。
覚悟を決めてぎゅっと目を瞑ると、低い声が遠慮がちに紫乃の名前を呼んだ。

「・・・三島はん」
「ひっ・・・!喋っ・・・!って・・・あ・・・石田くん・・・?」

仏像が静かに頷いた。喋る仏像の正体はクラスメイトの石田銀だった。
紫乃は扉の淵にしがみついてほうっと嘆息する。
銀が座禅していた足を崩して机からゆっくり降りた。

「よかったぁ・・・」
「堪忍な。驚かせるつもりはなかったんや」
「脅かさないでよ、びっくりしたぁ・・・。でも、何のために?」
「精神統一のための修行や」
「へ、へえ・・・よくやってるの?」
「ああ。この学校は精神修行するにはええ場所が仰山ある」
「何ていうか・・・怖がられない?」
「いや。三島はん今までで一番ええリアクションやったで」
「あ・・・ありがとう・・・?」

申し訳なかったと思う。というか、本当に申し訳ない。
生身の人間に、というかクラスメイトに対して幽霊を見たような反応をしてしまうなんて。恥ずかしい。

「三島はんまでとは言われずとも、驚く人間は多いがな」
「だから誰も居ないところで?」

静かにうなずく。石田くんの所作は、何でもゆったりと流れる水のように静かだ。
確かに誰も居ないような場所でさっきのように石田くんが精神修行をしていたら、ものすごく驚くだろう。

「でも寂しい所にいて、一人で怖くないの?」
「時に苦行も修行には大事やで」
「そっか・・・。すごいね」

紫乃は自分の席に戻ると、机の横にかかっていた鞄を開ける。机の中をさぐってプリントなどを探って必要なものだけを鞄に詰め込んでゆく。

「三島はん、これから帰るんか?」
「あ・・・うん、そうなの。今日はちょっと遅くなっちゃって」

銀に苦笑いしてみせた紫乃が鞄のチャックを締め終わると、教室の放送スピーカーから不意にチャイムが鳴り響いた。思わず驚いて方を跳ね上げる。

「下校時刻・・・」
「随分暗くなってしもたな」
「本当だ」
「校門まで送るで」
「えっでも石田くん、寮反対側じゃ・・・」
「敷地の中やし大したことあらへん。暗くなると危ないし、三島はんは怖いものが嫌いみたいやしな」
「う・・・じゃあお願いします」

いつも真一文字な石田くんの唇が、ふと上がったような気がして紫乃がはっと見上げると、もういつもの表情に戻っていた。
先を歩き始めた石田くんの広い背中の白いシャツが反射して、いっそう大きく見えた。
15days | 23:51 | comments(0) | - | chica
5th day
昼休みにはテニス部の集まりがあるとか言っていたが、思ったよりも謙也は早く教室に帰ってきた。
謙也は教室に帰ってきたかと思うと、おもむろに教室の黒板消しやらガムテープやらの小道具を自分の机の上に置いてゆく。
一体何をし始めるのだと思ったら、どこから持ってきたのかスティックを二本両手に持って机の上のものを叩く真似をし始めたかと思うと、今度は持っていたスティックをものすごい勢いで回し始めた。
紫乃は遠目で観察しながら、謙也は見ていて本当に落ち着きがないなあと思う。
そのうち見てられなくなって、声を掛けた。

「・・・何やってるの?」
「見て分からんか?」
「うんちょっと理解できない」
「ひどっ!ドラムやドラム!」
「へぇー・・・ドラム。謙也、楽器やるんだ」
「まあ、趣味程度やけどな」
「じゃあ大した事ないね」
「言ったなお前!」

ドラムスティックで額をぺちっと叩かれた。痛い。紫乃が睨みつけると謙也は片方の口角を吊り上げてニヤリと嫌みったらしく笑う。

「びっくりするでー?ドラム叩くスピードも大阪一や。浪速のスピードスターの名は伊達やないねんで」
「大阪って狭っ!」
「アホ!言うな!」
「分かってるんだ」
「近畿のスピードスターへの格上げも近いわ!」
「聞いたことないけどねー痛っ!」

いよいよ力を込めて額をぺちんと叩かれた。木製だから尚更痛い。

「でも何でドラム?」
「テニス部の後輩とバンドでもやるかって話ししてて」
「へえー」
「最近全然触ってへんから、イメトレや、イメトレ」
「あーうん、そう」
「聞く気ナシやんか!」
「あ、頑張ってくださーい」

紫乃が気のない返事を返すと、謙也は叩く真似をして見せた。
叩く真似をしながら、ダダダダとかパーンパーンとか口で言っている。なるほど、イメージトレーニングらしい。
いつだったか謙也のことを微笑ましい奴だと白石くんが言っていた。
違う。謙也はおめでたいのだ。どこまでもおめでたい。
きっと幸せのキャパの浅い人なのだろう、走ってもテニスをしてもご飯を食べていてもすぐ「幸せ」とか言うし。つまらないことでもすぐ笑うし。なんだか、それで謙也が格好よく見えてくる自分もどうかしていると紫乃は思う。今更どうにもならないのも紫乃はよく承知しているけれど。

「バンドっていつ?何やるの?」
「今度の文化祭にでもやると思うで。まだ何も決まってへんけど」
「ふーん」
「しゃあないから紫乃には声掛けたるで。客寄せ係でな」
「ええーっ!何それ私も普通に見に行くし!謙也が来るなって言っても見に行く!だから死ぬ気で練習してなさいよ!」
「言ったな!言うからには来いよ!俺ドラムに惚れても知らんで!」
「言いましたよ行きますよ!っていうかドラムじゃなくてもとっくに惚れ・・・て・・・あ、あれ?」
「は?」
「・・・っ!何でもない!本当何でもない忘れて!」
「・・・お、おお」
「やっぱ忘れないで!覚えてて!」
「どっちやねん!・・・まあええわ、文化祭にでもお前の口から言わせて見せるで!」
「何それ変態!謙也のムッツリー!」
「お前に言われたくないわうっかり!」
「謙也には言われたくない!がっかりのくせに!」
「何やがっかりっt「おーい忍足ー、三島ー、そろそろ授業始めんでー」
「「えっ!?」」
15days | 23:50 | comments(0) | - | chica
4th day
「12番一氏ユウジ!蠍座の女歌います!」

また始まった。ユウジの一人のど自慢大会が。
昼休み、今日も8組では一氏ユウジの一人のど自慢大会が開かれた。
ハンディマイクを片手に歌っているのは8組を賑わせる主役・巷でも有名すぎるほど有名な小春とユウジコンビの一人、一氏ユウジだ。

小春君がいないと、すぐこれだ。紫乃はやんやと喝采を送るクラスメイトを眺めながら思う。
小春とユウジと言えば、常にくっついていて果てはそっちの趣味があると噂されるほど、男子にしてはいつも一緒にいる仲良しな二人だ。それでもやはり時折一人になってしまう時がある。
それは大抵生徒会の用事などで小春くんが断って、ユウジが一人ぼっちになる事が多い。その時のユウジの悲愴感はいつ見てもすさまじい。顔から、全身から寂しそうなオーラが発散されるのだ。
例えるなら捨てられた子犬、引き裂かれたジュリエットのような。小春くんは一体毎日どのようにしてユウジと別れて帰宅しているのだろう。

ハンディマイクはもともとは確か担任の持ってきたオモシロ道具の中に入っていたものだったと思う。あまりにしょぼくれているユウジを見かねて、誰かが渡したのだ。
「これで面白いことやってよ」。この台詞で芸人には火がついてしまうらしい。
そうやって小春くんがいなくなってしまうといつも、この一人のど自慢が始まるのだ。
のど自慢と言ってもただののど自慢ではない。モノマネのど自慢だ。あらゆる歌手のモノマネを一曲ずつ一人でやってゆく。
しかし渋い。いちいち選曲が渋い。何故か最近のアイドルではなく演歌や一昔前の歌謡のものしか選ばない。何故だろう。
それでも、ユウジのモノマネがものすごく似ているのは紫乃でも分かった。流石モノマネ王子だ。

マイクを持ったが最後、昼休みが終わって小春くんが帰ってくるまでそののど自慢は続く。ユウジの元気が出るならばそれで良かったけれど。
今もユウジは最後列の山田くんと笹川さんの椅子をくっつけて作ったステージの上で山田くんの机に片足を掛けて熱唱している。

今では開催されると他のクラスからも、「懐かしい」と職員室からも観客が来るようになるほどの評判になってしまった。
もっとも、小春くんがいると今度は振付まで完璧なアイドルコンサートになってしまうのだけれど。
平和だなあ。8組は今日も平和だ。

「おい紫乃!」
「・・・うん?」
「次!」
「ああ、はいはい」

ふと頭上を見上げるとユウジの不機嫌そうに寄せられた眉に、紫乃ははっとした。ぼんやりしていた。
今現在、紫乃もそののど自慢を手伝わされているのだ。ユウジの後ろでインストを流す役目を頂戴してしまった。
不幸にも、ユウジと紫乃は小学校からの付き合いがある。人気者の割に交友範囲の狭いユウジは、小春がいなくなると何か紫乃を頼りにしてきた。
紫乃も仕方がないと付き合ってあげることが多い。ユウジにとって紫乃は小春の次の二番手の人間ようだ。

「次次!」
「でももうすぐ昼休み終わるで」
「えっ!?わっホンマや!よっしゃ、今日は終わりや!」

ユウジが机からぴょんと飛び降りる。観客もばらばらと各々の席や次の授業の準備に散って行った。

「さっき、何ぼーっとしとったん」
「いや、ユウジって面白い人だなと思って」
「は?いきなり何やねん。そんなん最初っからやろ!」

素直に褒め言葉に受け取ったらしいユウジは胸を張った。
本当に面白い人間だ。人に笑ってもらう為には何でもする。芸人の鏡だ。
自分では楽しそうに笑うことはない気がしていたけれど。

「言っとくけど褒めてないよ」
「何やて!?」

ユウジが紫乃に詰め寄る。こうやってすぐ詰め寄って反抗心を顕わにするのはユウジの悪い癖だと紫乃は思う。
教室のドアがバタンと開いて大声が響いた。

「た・だ・い・まーーー!ユウくーん!」
「あっ!小春ぅーーー!今日は早かったなあ!」

紫乃を突き飛ばし、ハンディマイクも放りっぱなしで小春のもとに一直線に駆け寄った幼馴染に紫乃は思わず苦笑してしまう。
そうね、そうですね、小春くんと仲良しで何よりだよ。私は小春くんと一緒に楽しそうに笑っているユウジの方が好きだよ。
思い切り突き飛ばされた紫乃に、不思議と腹立たしい気持ちは起こらなかった。
溜息を吐いてから、紫乃はコンポを片し始める。
15days | 23:30 | comments(0) | - | chica
3rd day
4時間目の社会が、先生のお子さんが熱を出したとかで自習になった。8組の教室はクラスメイトのお喋りやネタ見せで、すっかり騒がしいカオス状態だ。
課題として慌てて刷られたのだろう、若干文字の曲がった印刷プリントと格闘していた紫乃はふと顔を上げて、首を傾げた。
斜め前の席に、見たことのない後姿があった。
お下げである。髪を二束に分けて編んだ、いたって普通の三つ編みのお下げだ。なのにその後姿は三つ編みにも関わらず、男子の制服を着ている。

「・・・誰?」

紫乃がその後姿にそっと声を掛けてみると、くるりとお下げが翻った。

「アタシよア・タ・シ!小春ちゃんよ!」
「ひっ・・・!」
「『ひっ』って何やねんな三島ちゃん。可愛えやろー?このカツラ、昨日買ったんや。似合う?」

小春はお下げを摘み上げて自慢げに笑う。似合うと言って褒めたらいいのか、それとも言ってはいけないのだろうか。
というかそのお下げのカツラ、いつ何のために使うのだろうか。漫才のネタだろうか?それともテニス?趣味?甚だ謎だ。

「あー・・・うん・・・そうだね・・・似合うよ・・・」
「もうっ!可愛いんだったらもっと褒めてってば!」
「はい可愛い可愛い」
「ちっとも心が篭ってへんで。ってあら三島ちゃん、まだプリントやってたん?」

星型の手鏡を置いて小春がぴょんと席を立つと、同じように2本のお下げが揺れた。
男子の学生服でお下げのカツラを被っているのだから異様な光景だ。というかそもそも、男子がお下げのカツラを被っているのがおかしいとは思うのだけれど。
8組の一員となってからというもの数々の過激なネタやドッキリの数々を経て、紫乃にも大分耐性が付いてきた。慣れとは怖いものである。
名物の小春とユウジだけでなく、8組には他にも大勢の魔物が棲んでいる。今では目の前で小春が目の前でテニスボールを胸に詰め込んでも、ユウジが校長のモノマネで今朝の朝礼を再現しはじめても動じなくなった。我ながら進歩したと思う。

「もうすぐ終わるけど」
「終わったら三島ちゃんもコレで遊んでみいひん?」

ひょいと出したのは鼻眼鏡だ。その他にも少女漫画のような瞳の描かれた眼鏡など、さまざまなネタ眼鏡が小春の手に載せられる。

「は?」
「カツラも仰山あるでえ。アフロとか」
「いえ、いいです」
「ほな、コスプレとか」
「本当、いいです」
「せや、まずはこのお下げ被ってみいひん?お下げにセーラー服は鉄板やからな」
「えっちょっ人の話を・・・!やめてって・・・!」
「ほら!三島ちゃん可愛えやんか!ロックオンしてまうわー!」

教壇で先生のモノマネ授業をしていたユウジが小春の「ロックオン」に反応して振り返った。
ユウジの視線に構わず紫乃にべたべた触る小春を発見すると「浮気か小春ううううううう!」の絶叫が響いて、同じフロアの他のクラスで授業をしていた先生達にいよいよ叱られるのにはそう時間が掛からなかった。

「三島ちゃん可愛えんやから、今度ホンマにナース服着てみいひん?」
「・・・いや、遠慮しとくわ」
「そんなつれんこと言わずに」
「本当にいいです結構です大丈夫です間に合ってます」
15days | 23:36 | comments(0) | - | chica
2nd day
紫乃が慌てて委員会を終えて教室に帰って来ると、紫乃の後ろの席には小さく人だかりが出来ていた。
今月初めの席替えで紫乃の後ろの席になったのは、千歳くんという九州から転校してきた異様に身長の高い男子だ。
人だかりの中からわずかに見える千歳を紫乃は久しぶりに見た。彼は座って何かをしているようだ。小さい人だかりが紫乃の机にまで及んでいる。

「紫乃。おかえり」
「ただいま。千歳くん、いつ来たの?」
「ついさっき、ひょっこりとね。来たと思ったらアレよ」
「将棋?」

ドア近くの廊下側の窓辺で椅子に腰掛けて雑誌を眺めていた友人が紫乃を呼んだ。
紫乃が近寄ると、人だかりを指差して見せた友人は「そう」とかったるそうに頷いた。
友人の指の先、人だかりから見えたのは、81の小さな将棋盤を眺めながら顎に手を当ててぴくりとも動かない千歳の姿だ。

「随分真剣みたいだね・・・」
「4組に将棋マニアの文芸部長いるでしょ。千歳が将棋やるって言うから勝負持ちかけたみたいよ」
「ああ、小宮くん。確か強いんでしょ?へえ・・・千歳くん勝てるのかな」
「どうだか。っていうかあんたの机、今小宮に占拠されてるわよ」
「・・・本当だ。やばい」

友人は「頑張ってね、宿題」と将棋にも宿題にもさも興味なさげに言って、再び雑誌に目を落としてしまった。
それを聞いてはっと現実に引き戻される。そうだ、忘れていた。化学の課題。
夕べ帰宅してから教室の机の中に置き忘れてしまったことを思い出して、今朝学校に来てから少しずつ解いているものの、それでもまだ半分は残っている。苦手科目はそれほど解くのが遅い。

将棋盤を挟んで向き合っている千歳と小宮の周りにはまるで昼休みの和やかな雰囲気とは違う、真剣な雰囲気が漂っていた。
まさか少し席を離れただけの自分の机で、あんな真剣勝負が展開されてしまっているとは。やはり教室を出る時に一緒に持っていって図書室ででも済ませてきてしまうのだった。
次の授業で提出する化学の課題プリントが紫乃の頭の中を占めてゆく。

「あ、三島さん。久しぶり」
「千歳くん」
「おい千歳、お前の番やで」

少しだけ自分の机の中を探らせてもらおうかと紫乃が小さい人だかりに入り込むと、紫乃の姿を認めた千歳くんににっこりと笑みを浮かべられてしまった。真剣勝負中に、いいのだろうか。
案の定妨害されて機嫌の悪そうな小宮くんに睨まれる。

「何や」
「あとどれくらいで終わる?机使いたいんだけど」
「スマンな勝負中や。試合が終わるまでは貸してもらうで」
「そやね。あと5手位かな?」
「え?」
「三島さん、すぐ終わるからちょっと待つばい」
「う・・・うん」
「何寝言言ってんねん千歳、んな事より早よ打てや」
「はいはい」

苦笑いをしながらぱちんと小さい駒を盤に差す。
小宮くんの顔色が変わった。焦燥が滲む表情でしばし考え込んだ後、千歳も順調に差してゆく。

「はい、これで5手。俺の勝ちやなか?」

思考して駒を差す短い作業を何度か繰り返して、千歳がゆったりとした動作で、けれど小気味いい音を立てて盤面に駒を置いた。
打つ手がないと悔しそうな顔色の小宮を見て、微笑む。

「・・・くっそ、俺の負けやわ。せやけど久しぶりに面白かったわ」
「ああ。俺も楽しかったばい」
「せやけど次は勝つで」

小宮くんはそう言い捨てると、そそくさと駒と盤を片付けて教室を後にする。
紫乃の机はあっという間に空いた。

「はい、どうぞ」
「ありがとう・・・ねえ千歳くん、何でさっき5手って・・・」
「うん?ああ、それは内緒ばい」

人差し指を口元に当てていたずらっぽく笑う千歳の顔が、雲が切れてのぞいた太陽を背に、輝いていた。
15days | 23:52 | comments(0) | - | chica
1st day
「ほい、チェックメイト」
「あああっ!」
「何や、うるっさいなあ」

紫乃は大声を上げて机に突っ伏した。その衝撃で机上のチェス駒がカタカタと揺れる。負けた。また負けた。
紫乃の大声に白石は大仰に眉を潜め、耳に手を当てる仕草をしてみせる。
こぶしを握って紫乃が白石を睨みあげると、白石は片方の口の端を吊り上げてニヤリと笑ってみせた。憎憎しい。
クラスメイトの白石にチェスを教えて欲しいと頼んで、手ほどきを受け初めて約2週間。
たまたま会話の中で「そういう趣味は格好いいね」と口走っただけだったのだが「興味あるんやったら簡単にでも教えたるで」と誘われ、ある程度ルールが分かるようになってから実際にゲームを始めて10日。

「これで三島は10戦10敗か。しっかし全然強くならへんな、自分。教えてておもろないわ」
「ううっ・・・白石が強いだけでしょ?」
「当たり前や。弱ければ初心者さんに教えるわけあらへん」
「私初心者なんだから手加減してよ・・・」
「手加減なしって言うたのは三島の方やろ。それでも先手譲ってやったんに」
「あーあー聞こえなーい」
「都合の悪いことは聞かれへんねん耳なんやな。敗者さん」
「人間その方が幸せに生きられるものなのよ。ものごっつ聞き捨てならない言葉が聞こえたけど」
「しゃあないなあ」
「明日は絶対勝つから!首洗って待ってなさい!」
「ほな、今日の罰ゲームな」
「痛っ!」

額をデコピンで弾かれた。罰ゲームだ。それも紫乃から持ちかけたものの、もう10回も自分の額を赤くしている始末だった。
けれど痛いと言っても白石はそれほど力を込めているわけではなくて、寧ろ手加減してくれている位なのだけれど、表情がニヤニヤしっぱなしでそういうことをするから尚更紫乃には憎憎しく見えてくる。

「なあ三島」
「何ですか白石さん」
「何が楽しくて俺がこんなに付き合ってやってると思ってるん?」
「勝つのが楽しいから?」
「んな弱いものいじめみたいなことするかいな」
「成長が楽しみとか」
「残念ながら三島にはあまりチェスの才能はあらへんようやな」
「じゃあ何?」
「頭使って、よう考えてみ」
「まさか・・・チェスしてる俺格好いいとか、またそういうナルシストっぽいことを・・・」
「ちゃうわアホ!」

突っ込んだ白石が溜息を吐いて呆れた顔で笑う。

「俺に勝てたら教えたる」
「えっ!気になる!分かった、明日こそ絶対勝つから!」
「やってみ、初心者さん」

包帯を巻いた人差し指が紫乃の額を優しく突いた。
これは是が非でも聞かねばなるまい。紫乃が明日の勝利の為に11回目の意欲を燃やし始めた時、昼休み終了の鐘が鳴った。
15days | 23:56 | comments(0) | - | chica
15days
かねてから話題にしていた例のDL教室ショットの企画を始めようと思います。
以前から立海や比嘉っ子の教室ショットをチラ見しては、四天宝寺でもいつか・・・!と本当に楽しみにしていたので、今眺めていてもnynyが止まりません。生きててよかった。そんなことが出来たら楽しいだろうなとニヤニヤしていたことが可能になる日が来るだなんて本当に、生きててよかったです。

題して「15days school life! feat.四天宝寺 A & B 〜妄想したモン勝ちや〜」←ここまでタイトル

〜ルール〜
・DL生写真の教室ショットを元ネタに一日一小話
・あくまでも元ネタなのでご覧になったことがなくても大丈夫です
・順番はAの白石部長からBの金ちゃんまでの紹介順で
・完全自己満足

ブログでのアップになりますので、申し訳ありませんが名前変換が出来ません。サイト収納時に変換しますのでお待ちください。

目標は初志貫徹です。およそ企画と関係のない目標で申し訳ないです。今こそ駄目人間脱却の時。
愛する浪花の王子様(の生写真)と己との15日間戦争。頑張ります。くじけたら一生白石部長とデートできない!
15days | 23:26 | comments(0) | - | chica